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財団法人 清和国際留学生奨学会
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北方文学・塩の道研究 ── 「楊家将」「水滸伝」(北方謙三著)

 先ご紹介した「近松門左衛門の真実」(近松洋男著)に出てくる「塩のネットワーク」では、歴史の隠れた真実を当財団理事・近松洋男先生の考察で学ばせて頂きました。

 塩は国家権力そのものと言われるように、塩を背景とした財政基盤は国をも動かす事が歴史の断片に出てきます。当財団近藤理事長の親戚で選考委員でもある小説家の北方謙三先生の著作、「楊家将」や「水滸伝」にもこの塩を財政基盤にした主人公の活躍が随所に出てきます。こちらは、中国宋代初期と末期のお話しです。

 まず「楊家将」では宋建国の英雄、楊業将軍が北方民族と対決。皇帝からも特許状をもらい、自分の領土を通る塩商人から税を取る事で武力を蓄えるというものです。楊業を首領とする楊一族は、このため宋という国家からある程度独立した存在となります。官僚主義に陥った正規軍の弱点を補って縦横無尽に戦い、宋建国時に北方民族の侵入を食い止めました。楊一族は、けっして塩から得た富を私利私欲に使わず、武人としての質素な生活に甘んじ、精鋭な部隊を作る事のみに専念。モンゴル平原からは良馬を購入し精強な騎馬隊を編成して北方騎馬軍団を圧倒していきます。ところが、官僚化した宋正規軍の不実から、敵に包囲され憤死してしまいます。宋は国家防衛の一番大事な時期に方針を誤り、結局、この北方民族の侵入がもとで衰退の途を歩む事となりました。
 当時の経済は北方へは塩、中華平原へは良馬が流通する事で成り立っていたようです。お互い戦争をしながらも、この流通は止めることはできず、「敵に塩を贈る」という故事ではないですが、商人は利を得ていたようです。

 さて、宋代末期になると、国は大いに乱れ、民は苦しみます。そうした中から立ち上がったのは、闇塩の商いで軍資金を得た革命軍、「水滸伝」に出てくる好漢達です。その中で、特筆すべきは、近松門左衛門のような才覚あふれる商人、保正(日本でいう地方豪族)、下級役人達です。「近松門左衛門の真実」の「公界往来(くがいおうらい)」に似た思想、「替天行道」(天に替って道を行う)が、「水滸伝」の思想的基盤です。
 ここでの闇塩の道は、いわゆる裏経済です。宋という国家がいくら取り締まっても形を変え、やはり北方平原と華中との間を流通して行きます。塩の道をめぐる戦いは、情報戦。国家情報機関と天才肌の「軍師」との知恵比べは、現代の情報戦略にもなぞらえる分析力と判断力が勝負です。また、実線部隊の英傑たちは、「楊家将」に登場する人物の子孫が多く、物語に華やかさを加えています。
 闇塩の道の元締めはたった一人。盧峻義という商人で、このルートは係わる卸問屋は自分が闇塩を扱っていることすら知らない。書類を残さず、伝達には独特な媒体を使い、発覚しそうになると、一瞬ですべてを消去する。いかにも天才の考えそうな事で、近松門左衛門の才覚に共通するものがあります。

 「水滸伝」の最後は、「楊家将」の末裔ともいうべき楊令が、梁山泊の志を胸に抱いて生き抜くところで、終わります。しかし、この結末は、また新たな北方文学の始まりのようであり、読者の期待も頂点に達しようとしています。

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