海外便り 2004年1月 メニューへ |
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| 「ロマンチック街道(人生最良の日)」 ドイツ年金事情 | |
今は昔、新婚旅行の行き先にドイツ・ロマンチック街道を選んだ。ミュンヘンから中世城砦都市ローテンブルクへ着いて一泊。そして、フランクフルトへ行き、パリへの国際列車に乗る旅。翌朝、停留所でバスの出発を待っていた。観光客のなかに、60代後半の気さくなおじいさんと奥さん、それに20歳ぐらいの娘さんがいた。彼らは陽気に騒いでいた。「夫は今日が人生最良の日なの」と奥さんが誰彼かまわずに愛想良く言った。彼女の差し出すお祝いのワインを一気飲みするおじいさん。娘(孫娘?)は「もう駄目!」とたしなめていた。私と新妻は、顔を見合わせて、いつか、あのような老夫婦になれたらいいなと、微笑んだ。 ところが、その後恐ろしい事が起こった。その老人は何と運転席に座り、バスを出発させた。彼は運転手だった。そして、欧州人にとって人生最良の日とは、定年になって年金をもらえる日の事だと知った。バスは進む。蛇行せずにまっすぐ進む。運転手さんと若いガイドさん(さっきの若いお嬢さんは、ガイドだった)は陽気にはしゃいでいた。その陽気さにつられて、ニュージーランドから来た観光客は、とんでもないことを言い出した。「ドイツの羊を見たい」 ニュージーランド人の要請で、この運転手はバスを路線から逸脱させたばかりか、付近の牧場で停車し、羊を抱きかかえて彼と一緒に騒いでいる。我々は只、唖然と見ているだけ。日本人の感覚で言うと、自分が定年になることが何故そんなにうれしいのかと疑問に思ってしまうが、そこには、厳格なまでに完備したEU年金制度があった。65歳となり、年金生活をする頃になると、家のローンはすでに完済、手厚い年金で老後の生活は心配ない。ゲルマン民族は独立心が強く、日本のパラサイトシングルなど余計な者はいない。何よりも不当に高額とも言える、厚生年金徴収からは、完全に開放される。それが何よりうれしいらしい。 |
この運転手さんは、どうせ明日会社を辞めるのだから何があっても怖くない。そんななげやりな態度かと思ったらそうでもない。ヘビースモーカーをユーモアたっぷりに諭して嫌煙家の席から離したり、よそよそしく離れた席に座っている夫婦をいっしょに座るように促したり(断じて言う、私ら新婚夫婦の事ではない!)、絶えず笑顔と気配りを忘れない。乗客は彼の人柄に素直に従う。そんな彼の事を、社会人になりたての若いガイドさんは尊敬の眼差しで見ていた。 ニュージーランドの観光客に羊を見せに行った分だけ、時間は遅れていた。私が「フランクフルトで国際列車に乗る。時間は大丈夫か?」と質問すると、彼はおもむろに車内マイクを取り、「日本の方が、間に合うようにフランクフルトに急行します」とアナウンスし、猛スピードでバスを走らせた。ベンツもBMWもポルシェも、グングン追い抜いてバスは走る。まっすぐ走る(しつこいですか?) 定刻どおりフランクフルトに到着。車内はその見事なプロ意識に、拍手喝さいの渦。 人生最良の日、自分もこうありたいと誓った。 |
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