ニューロング  

第4話
海外便り 2003年11月 メニューへ
「凱旋門」 フランス新人権宣言、人権優先か危機管理か?

 9.11の米国中枢同時多発テロ以降、人権優先か危機管理が先か?の議論は世界中で行われている。過剰に反応した?とされるアメリカはとうとう中東で戦争を始めてしまった。フランスが「冷静になれ」とアメリカを嗜めると、怒れるブッシュ政権はフランスを「老いぼれ」呼ばわりして応戦した。しかし『老いぼれ』には「年寄りの知恵」がある。

 同時多発テロは、アメリカだけに起こった事ではない。この半世紀、老大国フランスの首都パリで、多発している日常生活なのだ。
 まずフランスは、米国より中東アフリカのイスラム圏に近い、しかもイスラム諸国と腐れ縁がつづく地続きの国柄なのでイスラムの革命家など簡単に出入りしている。出入りというのは、正しくない。彼らは、フランス政府公認でパリに住んでいるのだ。イラン革命が成立する前夜、フランス政府が革命家ホメイニと裏取引をしてイランへ帰国させたことは、あまりに有名。そうやって、この国は、外交的エースカードを手に入れて来た。

 約20年前、パリで同時多発テロが発生した。フランスはさすがに建国の理念を捨てて、外国人に対して門戸を閉ざした。EU圏外パスポート保持者の入国を拒否したのだ。そして、治安当局は、パリ在住の革命家達を強制収用したのだ。この処置は、国賓が来たとき等良く行われる処置で、フランスの新聞では、「テロリスト達のバカンス」と皮肉こめて報じられる。ぎりぎり危険になるまで、監視付で「自由」生活をさせておく。事が起これば、いつでも郊外の保養施設(収容所)に収監する。これがフランス的「年寄りの知恵」なのだろうか?

 フランス人には慣れっこになっている同時多発テロでも、日本から来ている身では、勝手がわからない。そんな時に限って、爆弾が炸裂するパリへ出張命令が下る。パリは一見平和そうに思えた。どこで泊まれば安全なのか?まず一流ホテルは避ける。(わざわざ避けるまでもなく、普段からそんなところに泊まった事はない。)次はテロリストの標的近くは避ける。そして、なるべくテロリストが潜んでいそうなところに泊まる。なぜなら、彼らのアジトにわざわざ爆弾をしかけないからだ。それに、警察に近いところがいい。そう考えると、普段から定宿にしているカルチエラタンの安宿しかない。ここは学生街。東京で言えば、神田か御茶ノ水。近所の警察署からは、パトカーがひっきりなしに通り過ぎていく。

 

 その時の訪問先は2件あった。最初の訪問先はマレ地区(外国人が多い下町)にあった。この地区に入るとここはいったいパリなのか、それとも中東、アフリカ、アジアなのかと錯覚してしまう。訪問先のドアを開けると、お客様はアフリカ系の人だった。見るからにお金持ち風で、恐ろしくきれいな英語を話していた。どこか怪しい。危ないので、話だけ聞いて、早々と退散した。

 次の訪問先は、業界の老舗企業。電話で道順を聞いたら「凱旋門の見える場所だ。すぐわかる」と誇らしげに道を教えてくれた。フランス人にとって「凱旋門の見える場所」とは、国家的に功労のあった軍人等だけが住める場所なのだそうだ。凱旋門の下には、無名戦士の墓とフランス戦勝記念の4枚のパネルが埋め込まれている。ここに来ると往年の映画「凱旋門」(レマルク原作、シャルル・ボアイエ、イングリット・バーグマン主演)を思い出す。ヨーロッパの市民生活は身分証明書の種類によっては、超法規的処置によりいつ自由を奪われるかを覚悟しなければならない。凱旋門はフランス国家にとっては、勝利の門かもしれないが、難を逃れて『自由の国』にたどり着いた分け有りの人々にとっては、突然収容所への門となる。

 それが植民地ベトナムを手放し、中東アラブから手を引いた老大国フランスの危機管理だとしたら、古いヨーロッパの正義とわざわざベトナムや中東へ介入して行くアメリカの正義と、いったいどちらを選択するかは、結論が出そうにない。





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